短編拳銃活劇単行本vol.1

□夜と霧の使者
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 殺し屋の殺し屋。
 殺し屋の襲撃を事前に防ぐアンチキラーとも違う。殺し屋の襲撃の際に防御力を発揮するキラーカウンターとも違う。
 純粋に殺し屋のみを殺す殺し屋。
 彼女彼らの用途は様々だ。殺し屋を殺す殺し屋と云う表現は謬見から生まれた表現かもしれない。何故なら、殺し屋にも様々な種類が存在するからだ。銃を用いる者。刃物を用いる者。毒を用いる者。電気を用いる者。動物を用いる者。トリックスターの様にターゲットを追い込んで社会的に抹殺する者。
 銃を使う殺し屋にしても更に細分化される。狙撃を専門にする者。近接での銃撃を専門にする者。弾幕を張り巡らせて無残な死を提供する者。特殊な弾薬を用いて特殊な方法で成す者。
 殺し屋も多様化する時代。互いに異種を得意とする殺し屋が徒党を組んで看板を掲げる時代でもある。極狭での狙撃は一流だが一撃に欠ける殺し屋が猛毒を得意とする殺し屋と組めば射的競技用の22口径でも弾頭に毒を仕込めば速やかに死を提供できる『仕事道具』を得る事が出来る。多様化の時代は即ち変化応用の時代でもある。近年では工業用レーザーカッターや電子レンジの理論を用いた高周波で『変死』させる手法も出回っている。勿論、従来通りの自殺や事故に見せかけた殺害を専門とする者も多数存在する。
 故に『殺し屋の殺し屋』と呼称するのは定義が広いのだ。何しろ広義の意味ではヤクザの出入りで多用される鉄砲玉も殺し屋の範疇だ。もしかしたら降圧剤の投与のし過ぎで事故死が発生されたとされる総合病院の内部に医療従事者と二足の草鞋を履く殺し屋も居るかもしれない。普段の、何気ない、代わり映えしない風景の裏側には玉石混交有象無象多芸に無芸な殺し屋が犇めき合っている。クライアントより殺し屋の方が多いと皮肉られても仕方がない。
 だからこそ頭角を現し始めた新しい職種として『殺し屋の殺し屋』が存在する。スイーパーやクリーナーと呼ばれる程、洗練された業種ではない。
 ……そして。ここに一人の殺し屋の殺し屋が居る。
 莨屋妹理(たばこや せのり)。33歳。女性。
 名前に反してタバコ屋の生まれでもないし一人っ子で妹ではない。
 殺し屋の殺し屋の具体的で共通した職務内容は相手が殺し屋で有れば依頼さえ有ればその殺し屋の動向如何を問わずに殺害に処す。例に漏れず彼女の「手は汚れていた」。
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